エッ?ヤバ今アタシもしかしてあの花椿カレンセンパイに話しかけられちゃってる系?え〜〜ッやばたんテンションバクアゲなんだけどッ(折り畳んだミニのプリーツスカート翻し廊下を掛けんとしたつまさきがたたらを踏んで立ち止まったのは放課後、下駄箱に向かう道中の廊下にて。下校時間の真っ只中ともなればそれなりに生徒で賑わう喧騒の中、その端麗な出で立ちはそれでも目を惹きつけるには充分だった。くるりと振り返りつまさきをきちんと揃えてから「やばいってナニが〜?」、小首を傾げたのも束の間。)んっふふ花椿センパイにナンパされちゃった〜、やばば今度のせきうらチャンネルで自慢しーよおっ。 あ、なんだっけ名前?関ケ原から“が”を抜いて関原、名前は平仮名でうららだよん。ちなピカピカのいっちねんせ~(ぴっと立てた人差し指で宙に文字をなぞりながら、にししと歯を覗かせて笑う顔ばせは何処か悪戯めいたもの。)
カレンセンパイの名前もきゃわたんでしょ〜〜てかカレンセンパイて呼んでもいーい?呼んじゃおっ(返答を必要とせぬ問い掛けに自分勝手に頷いたのち、唐突な話題の方向転換には「っあは〜!」、口元に両手を添えながらもいっとう楽しげな笑いが転がってしまう。)さぁすがファッション界のカリスマ~!アタシそゆ質問スキ♡んでもってファッションもチョーダイスキ♡今はねギャルぽいのとかオルチャン系がアツイ系~~nenneはマジ神ってる!ケドやぱちょぴっと高いんだよね〜〜だからアタシはもっぱらキャンディ・ケインとフリマにお世話になりっぱだよ。カレンセンパイってフリマとかは行……かないかぁ。さすがに。(カリスマ女子の顔ばせを覗き込んだものの「ないな」とかぶりを振って首肯をひとつ。うーんと引き結んだ唇に人差し指を宛がったのち、続く問い掛けには「お部屋?」と思わず鸚鵡返しで問いをなぞった。)カレンセンパイ変なトコ気にすんね…?ウチ平屋でさぁちょ〜セマくってね、キョーダイと和室半分こしてんの。でも和室ってちょいダサじゃん?だからねマット敷いて大改造して〜〜今はねポップ&姫ぽいカンジ!(問いに小首を傾いだくせ取り出したる電子端末に自室の写真を映じれば「見て見て家具もフリマで買ったの〜」と差し出す辺りに能天気さが垣間見えたか。)
え〜〜ッカレンセンパイてば含み持たせるのウマすぎじゃんね??気になりすぎてカレンセンパイのメロになっちゃいそお(唇を尖らせながらもどこか口吻は楽しげに。指先に髪をくるりと巻き付けながら、ところでに付随する問い掛けには「ン?」とまたも小首を傾げるけれど、顔ばせに浮かぶは現状を楽しんでますと言わんばかりの微笑みだった。)バイトであんま顔出せてないケド家庭科部だったりすんだよね〜。センパイ知ってる?家庭科部ってね服も作るけどお菓子とかオカズ作ったりもすんの。持って帰るとお姉さ、……ンンッお姉とかお兄が喜ぶかんね、家計的にもチョー大助かりだよ。今度トクベツにちょぴっと分けたげる〜(“ちょぴっと”を指し示すべく人差し指と親指でCマークのようなものを象ったあとは「ゆっとくケドまじオイシーよ」と自信満々な口吻が舌先に転がった。)
ウソウソッ、もう終わり〜〜?そんじゃカレンセンパイ次はアタシにコーデしてねっ、ダメ?お・ね・が〜いっ(“カリスマ女子に乞う!プチプラトレンドコーデ”たるテロップを脳裏に思い描いたのは女だけの内緒の話。顔横で両手を重ねながら態とらしく上目遣いで覗き込んでみせたのは歳下の特権を最大限に活かすべくとのあざとさの現れだったが、それが彼女に効いたかどうかは定かではない。またねの約束を結んで彼女の背を見送ったあとは、)……んっふふ、せきうらチャンネルの次のネタができちゃった〜。花椿カレンとのコラボ動画とか絶対メチャウケじゃん?復興の夢が近付いた系〜(剥き出しの強欲さを落っことしながらの微笑みは無邪気さの欠片もない。正しく悪い微笑みのまま帰路を辿り始めるつまさきがご機嫌に弾んで、)……あ!ヤバ!タイムセール終わっちゃうじゃん!タマゴ〜〜!(忙しなく駆け抜けた、夕刻の出来事。)
(呼び止められた声にはっとして顔中ぺたぺた触り確認したのは先ほど食べたポテトチップスがまだ記憶に新しかったから。もしかしたら食べこぼしがあったのかも、片手で彼女を制して待ったをかけること10秒後。)ちょっと、特に何もないじゃ……げげっ!?めちゃくちゃ美人…じゃ、じゃなくて!なんですかあ~?(同じ制服、見たところ年上そうな雰囲気に慌てて猫をかぶって10度のお辞儀。これ以上はちょっと痛いから無理をしないとは身体が硬い本人談。)今は時間もあるし別にいいですよ!えっと、ネネは仁科寧々花っていうんだ~!んーっと…カレン先輩?こそ名前も綺麗なんだね~!(両手を軽く握り頬近くへ持っていく。本人曰くぶりっ子ポーズらしいのだがその姿はファイティングポーズに見えなくもない。)っていうか同じ学校だったんだ。ネネもはば学だよ、1年生だけど!そういえば素敵な先輩がいるって噂で聞いたような…?(ネネだって先輩になれば噂されるけど!と、どこからでもやってくる自信を心の中で抱えながらにっこりと微笑みかけた。)
えへ!さすがカレン先輩!でも名前だけじゃないよね、……ねっ??(強調するように念を押した後、うーんっと人差し指で頬を突き刺しながら考えて)………男受け系?清楚な中にセクシーさもキュートさも兼ね備えているような小悪魔系っていうのを目指してまーす!けど……、お母さんにその格好で出かけるの?って言われることが多いんだよね。ま、これはお母さんがネネのセンスに追い付いてないだけだと思うけど、せっかくの機会だしお言葉に甘えて今度教えてくれると嬉しいなあ~!(チラッチラッ花椿さんのセンスを盗み見中。)黒色のレース系のもの着て行ってー、家に招いたらレースのカーテンとかテーブルとかクローゼットとかぜーんぶ白でギャップ萌え!を狙ってるから白色の物がいっぱい~!エレガンスに見せつつちょっとピンクの物も置いたりして、ってまあ…家族しか入ったことないから今のところ萌えられたことはないんだけど。(都合よくあった小石を蹴りながら)
よくぞ聞いてくれたわね!何を隠そう、このネネこそがはばたき学園野球部を甲子園に連れていく勝利の女神!(これでもかと胸を張り己の存在をめいっぱいアピールする。少しプルプルしてきたのは筋肉が使われたことによる疲れゆえ。)ぜ、ぜえはあ……あれ?これちゃんと伝わってる?野球部のマネージャーやってるってことを言いたかったんだけど…!(テイク2。テイク1を思い出し少しだけ照れた。)
ええ~!なんなら喫茶店で話の続きしてもいいのに!…そういうの友達としたことないしさあ。(ボソッと小声)…っとと、はーい!またね!………チャオ?(残された聞きなれない挨拶に軽く首を傾げるもたった三文字の言葉が心を熱くする。)ネネがいっちばんモテてやるんだから!!(高校生活いいことありそう、いや絶対良くしてやると強く誓いその場を後にした。)
(近くで飛び出す只ならぬ調子の声に、条件反射で足を止め、音の正体へ目を向ける。其処に居たのは、見慣れない美少女ひとり。ぽかんとした表情を浮かべ、)へっ?……どした、吐く?大丈夫?(はっと立ち止まり、急病人に対する態度で少女に駆け寄る。しかし、吐き気とは無縁と思しき明瞭な声が続くと、暫し無言でぱちぱちと瞬きをして。)あ、私?私がどうかした?スカウトだったら、私よりダンゼン密先輩だから……(彼女の元へ案内しようかと言いかけたが、明かされた名前に思考が根こそぎ吹っ飛び、またも固まる。)……花椿?花の椿?って、まさか…いや、たぶん確実にそうなんだろうけど…花椿姫子先輩とかデザイナーの花椿吾郎さんが親戚にいたりする?花椿の一族?やばっ……!たしかに…カレン先輩?も、キラキラオーラ出まくってるよね…。顔小っちゃいし肌ツルッツルだしモデル体型だし…!(穴が開くほどまじまじと上から下まで見つめてから、芸術品を見た時のように、ほうっと息を吐き出す。)あっと、ごめん名前言ってなかった。私、はね学1年の染谷詩花!苗字より名前で呼んでね、そっちの方が好きなんだ。「密」と「詩花」って響き、ちょっと似てるし。(んふふっと満更でもない顔をしながら、散々話したあとでやっと彼女の質問に答えた。)
っへへ、ありがとう!花椿カレンって名前の響きもめちゃくちゃ綺麗だし…芸名かって思うようなキラキラした名前だよね!(褒め言葉に弱く、見るからに弛緩した笑みで頬を掻く。続けた言葉は褒められて浮かれたがゆえのお返しではなく本心からの感想だ。)ファッションはそりゃもちろん興味ありまくり!系統かぁ…。理想は、フェミニン…OLとか育ちの良い女子大生が着るような、お上品なファッションが似合うようになりたい…って、割とずっと思ってる!…けど、現実はうまくいかないんだよね。まあでも、憧れるのは自由でしょ。(脳内イメージに居るのはもちろん憧れの先輩の存在。要するに彼女みたいな格好をしたいけれど似合わないのだと、数々の失敗を思い返して遠い目に。)だから…なんかこう、上手い感じに柔らかくて上品で大人な女っぽさが出るようなテクニックとか…知らない?(ダメ元のニュアンスで尋ねてみたら、思いがけず建設的なアドバイスが貰えたので、しっかり頭に刻み付けて後ほど実践しようと。)で、部屋は…んーと、特徴がなさすぎて説明しづらい…。服と楽譜はアホみたいにあるよ。あ、あと壁に密先輩の写真べたべた貼りまくって癒されてる。(悩んだ末、誇らしげに語った内容は彼女を困らせてしまったようで、苦笑いにつられてこちらも眉を下げる。)……いや、ストーカーじゃないからね!?隠し撮りとかじゃなくて、合法な…撮っていーですかって聞いてから撮ったやつだし、一緒に撮ってもらったやつもあるし。私の宝物!(しかし、曇りなき満面の笑みで宝物を語る声は最後まで力強いまま。)
……えっ!?っちょ、それ何!?何の間!?謎の間が意味深すぎる…。(語尾にハートでも付きそうな調子に面食らい、どことなく嫌な予感がして突っ込んでみようと試みる。が、案の定はぐらかされてしまえば、不服そうに曇る顔を隠さない。)ほんとになんでもない!?だったら…まぁ、信じるけど。(最後にもう一度だけしつこく念を押して、やや不承不承ながら納得の姿勢を見せた。)部活?やってるよ、バリバリの吹奏楽部。高校から始めたんだけど、密先輩がやってたから入ったんだよね。(憧れの彼女と同じ部活とアピールする時だけ、やたらと胸を張って強調した。)いやー、けど聞いてよ。サックスがあんなに難しかったなんて、やってみるまで全然知らなかったわ…完全にナメてた。みんな、さらっと吹いてるように見えて、どんだけすごい事してたんだって感じ。そんな苦労もあるけど、密先輩は見放題だし、皆も優しいし、上手く吹けたら楽しいし…ってことで、ざっくり楽しんでやってるよ。(晴れやかな顔できっぱりと言い切ってから、そうだと何かを思いついた様子で口を開く。)演奏会、まだいつになるか分かんないけど、分かったら聴きにきてみてよ。招待するから!(最後にちゃっかり宣伝も入れておいた。)
っえぇー!?(思わず人目も気にせず素っ頓狂な声が出た。)もー、これからがいいとこだったのに!まだ密先輩の魅力を一ミリも説明できてないんだけど!?(面食らった顔はすぐには元に戻りそうになかった。いよいよ本番に入ろうと上機嫌な時に、それを突然ぶつりと遮られたような物足りなさを感じながらも、子供ではないのでそれ以上に駄々はこねられない。そんなことをしては、憧れの先輩が余計に遠ざかるだけだ。)まあ仕方ないか、忙しそうだし。でも!次会ったら絶対連絡先交換しようね!……ま、カレン先輩なら目立つからすぐ見つかりそうだし、こっちから会いに行けたらそうするよ。(絶対会おうと言われたのが想像以上に嬉しくて、ぐいぐい食いつきすぎかと思いつつも力強く便乗する事を選んだ。あとは、軽やかに踵を返す彼女に笑みを浮かべて片手を振り返す。)まったねー!チャオ!(だけど、そう大きな声を飛ばして別れを告げた後。彼女の姿が見えなくなってからも、暫く消えていった背中を追いかけるように見つめていたのが大いに未練を残していた証拠だ――)
(春麗らか、ピンク色が満開となる場所もはらり。はらり。花弁が一片、また一片。と落ちて今では緑に染まる葉桜の候。1年前であらば、学園の新参者である己はこんなにも呑気に忙しない刻の流れに抗えずにいるのに、一巡りしただけでこうして今は落ち着き、ただ今日という1日を気ままに過ごすようになっていた。いつ見つけたのか、つい最近だったかも。それよりもっと過去のことだったかも。学園に住み着いてるのか野良なのか未だ知らぬ動物をテイムすべく装備品である野生のエノコログサを左右に手で振ってみるオレンジの長い髪の女の表情は真剣そのものだった。真剣勝負、本日の勝敗はどちらかが飽きる。または懐柔されるかで決まるのだが、今日だけはそんな放課後の時間にならなかった――隠れ家ではないが、あまり人が訪れぬ場所であるにもかからず聞こえてきたのは大人のなかに幼さも感じ取れる元気で強い声。その瞬間には勝負に飽きたか驚いたか気ままな猫は勢いよくこの場を立ち去り、風で揺れたエノコログサを手に持つ女だけが残り、)今日もテイムできなかったか。いつになったらぼくは使い魔を得られるだろう……(残念そうな声色でぽつり、離れていった猫の姿を視線だけで追いかけるが。気を取り直したように意味をなさない装備品をそこらへ一旦投げれば、やっと声のした方へと視線を向ければ、ぶつかる互いの持つ紫と黒の色だろう――そのまま口をゆっくりと開きなにようかと問う瞬間、黒色を持つ少女が先に口を開き、行き場をなくした言葉は喉の奥へ引っ込み耳を傾けた。唐突な自己紹介にぱちり、と1,2度瞬くも、聞こえた名は学園に通うものならば幾度も耳にするものであり、視界に映る姿は知り得る外見であったため、)君の名前は知ってるよ。バレー部のレギュラーでもあり色々と耳にしている。(そう、声をかけた側の正体は学園では有名な少女。互いにこうしてちゃんと会話することが今まで無かれども1,2言話すぐらいは1年を通してあったとおもう。だけど話題に上がりやすい人物であるぐらいで記憶に留めていた)ぼくの名前かい……、唐突な自己紹介に驚きが隠せないし、なにがどうしていまこうなったのかも順を追って知りたいぐらいなんだが。(疑問が上がれば上がるほど口数が増える己だったが。彼女が紡ぐのは「気になった。」と疑問の回答だというような言葉を飾られた)まあ……いいか。(消化不良のまま疑問は身体を蝕むけれど、そのまま追求しても彼女は同じことをいって終わらせる可能性もあり、自己紹介を始めることを促すような視線も浴びてるように思えたから。)ぼくは、二ツ木叶。二つの木に叶えるでそう読む。珍しい名だろう、魔法使いであるぼくとしては満足のいく名前なのだけどね。今年で2年になるから花椿さんとは同じ年となるね。(少女の見目や声色とは裏腹に物言いは宛ら男性に近しいものだったが、どうやら告げた先の少女はその口調を気に留めることもなく、ただ名乗りを上げたなかに交じった一文は彼女が印象深く感じたのか「魔法使い?面白いこというね~」なんて楽しそうに笑う声が聞こえてきた)ほら、きみは面白くて笑った。ぼくの言葉が笑顔にさせる魔法になったんだ。(第三者がいればそんな訳ないだろう。とツッコミが入りそうな気もするが今いるのは彼女と己のみだから、そこを突っ込むとすれば目の前にいる人物のみだけど。ツッコまれずにまた笑ってくれるだけだから、自分も口許を緩めて微笑みが浮かび上がった)
かわいい、の   かい?ぼくとしてはそう云われるのは稀すぎて驚いているのだが。(言葉通り彼女が告げるかわいい。と女の子へ向ける常套句は自分の名へ充てがわれることなど身内以外皆無に近いなか、知り合って間もない少女から褒められた言葉に驚愕し大きな紫の瞳は見開けばもっと大きくなってしまい、ついつい思ったことをぽろりこぼしてしまうが)だが、その――、ありがとう。珍しい言葉で褒められることは気分がいいね。(すぐに感謝の意を詰まらせながらも告げる言葉はその通りに自分の機嫌は喜色に染まる。それと同時に頬の血色が良くなってきたのは嬉しさとの反面照れも混じったから。)ファッション……、系統などあまり詳しくはないんだが。ああ、だが母がよくぼくに渡してくるものは女の子らしいものが多いな。(学園にいる今互いに学生服という定められたものであるから見せることできず口頭でイメージを彼女に伝えるものの好きなこと以外疎い女はどう言えばいいか悩んだ末告げたのは、自分が見た限りで当たり障りのないイメージ。そこにもっと系統が分類されるのであらば、この話題はこれ以上言葉見つからず唇はきゅっと結ばれ閉口するだけ。)部屋に関しては本が多いかな。幼少期から捨てられない童話を始めに魔法が存在するような書物が多いんだ。(「メジャーどころでメガネをかけた魔法使いの少年の物語かな。」なんて有名処を話の続きとして1つ取り上げてみた)だからといって魔法のなかで占術に分類されるものは専門外なんだが。(自分が目指すべき存在がどんなものかもついでに話してしまう。「占術」の言葉を彼女が聞いたときには「みよみたい。」と新たな人物の名をこぼす声を耳にする。その名も聞き覚えはあるものだが、明確な姿を思い浮かべることができず、どんな子だろう。と思うも口に出すことなく、違うことを思い出したように)ああ、あと魔法使いには必要な魔法の杖やローブに帽子が部屋にあるな。(本が沢山ある以外どんな部屋だっただろうか。と自分の部屋を思い出すようにひとつ。またひとつ。己にとって必須アイテムが部屋に存在していることをぽろしとこぼして、「どんなもの」なんて問われれば決まり文句のように)それは、ひみつさ。(魔法使いの道具があることはぼくと君だけの内緒話。だけどそれ以上は教えてあげない。とでもいうべくようにしぃーっと声を出すように空気が吐き出され。人差し指一本を吐き出す唇に当てて、ぱちりとウインクもするように片側の瞼を閉じてみた。そこで教えてとでも追求されればからからと笑い声をこぼしながら。「また今度教えてあげる」と次回に持ち越すような事を告げるがそれが真実となるかは自分の気分次第かもしれないけどそれを教えるつもりは今の所なく)
そ、ひみつのことだから。というか、なんだいその笑いは。(なんでもない。と云う彼女が気になってしまったから問うてしまう。己の秘密を告げることはしないのに相手側に聞いてしまう自分勝手さが見えて。まあ、それでも彼女も問いを交わした姿を見せるから似た者同士に見えてきて、小さな笑いが溢れたのを隠すべく口許を掌で覆いながら、次に質問された内容は当たり障りのない学園生活の一部のものだから簡単に答えてしまう)ぼくは吹奏楽部だよ。そう、氷室先生が顧問のところだから毎月第3日曜日だけが憂鬱さ。(文化部なのに毎月全体練習があることを思い出し月1の予定が完全に決まりそこへ向かうことが億劫だと両手を左右へと動かして肩を竦めつつも、)まあ、ぼく自身に魔法を使い憂鬱な気分を毎月消し去ってるけどね。(それが本当かどうかははてさて――けれど2年生となった今でも厳しいと噂される吹奏楽部に自分はまだ席を置いてるからこそ、真実味が増すような言葉である。と彼女が思ってくれれば有り難いことだが人の気持ちを決めつけるような魔法は未だ覚えてもいなければ覚える気も起きずだから彼女の心中は知らぬもの。ただ、視線は彼女を見据えたまま含み笑いを浮かべて)そういえば、全体練習で思い出した。花椿さんもぼくと一緒で第3日曜日が潰れる人だったね。時々嫌になったりするかい?もしもそんなときがあったならぼくを探してみなよ。見つけてくれたらその気持ちを消し飛ばすような魔法をかけてあげよう。(彼女と話していた当初にどの部に所属しているかも声に出したはずなのにどうやらシナプスが繋がってなかったようで。全体練習と運動部という接合部分が見つかり繋ぎ合わせれたのか、ぽんと思い出した瞬間には己が感じた気持ちと同じことがあったか。などと問うてみる。と同時に続くように問うた解を頂く前に同じことをしてあげよう。などと言葉を結びつけた。己を捜索するという労働が魔法の代償であるように告げもしたけど。)
これに時間制限があったのかい。(長く続いた質問会はどうやら彼女が時間に気づいて終わりを告げるようだ。その言葉を聞いて思ったことがつい口に出てしまえば、彼女は笑い声をあげた。唐突な遭遇からの話し込みはどうしてこうなったかの疑問は最後まで解消されることなく。)ついつい、君に出会ってから話し込んでしまったね。時間は大丈夫かい……(むしろ途中から忘れ去られてもいたほど、話し込んでいたのかと思えば、ついそのとおりに言葉にしてしまう。と共に時間を気にしだす彼女を心配そうな色の表情で問うた。もちろん時間が巻き戻ることなどなく無情にも進むのだから駆け足気味に別れの挨拶を告げて立ち去る彼女を引き止めることなどせずに見送るように紫の瞳は彼女が去る後ろ姿を視界に収めれば、普段より僅かばかりでも去る彼女に聞こえるように張り上げる声にて)君が求めてくれたらまた会えるよ。それじゃあ、また。(と、見えなくなるまで見守った――彼女の元へ届いたかどうかはわからぬが。届いたならばまた会おう。と思う気持ちはあると感じてくれれば安堵を覚える。今まで話し込んでいたため二人しかおらずとも賑やかな場所だったけど、一人になれば自分が声を出さない限りは静かなものだった。ぽつり、先程彼女へ届けた声量とは真逆に)今日テイムしたのは人だったか……(くすり、と笑い声こぼして独り言を呟いた。彼女が自分に懐柔されたか、将又逆に自分が彼女に懐柔されたかは知らぬところ。それでも、絶対会おう。と約束を交わしたから、これは叶えるべき魔法だ、と。)
→む?(――殺気。否熱い視線を感じて喜屋武はまつげを持ち上げる。切れ長のひとみは眼前に立つうつくしい女の姿を完全にとらえており、ついでにいうならばっちり目が合っていた。やばいかも……と恍惚まじりのつぶやきが聞こえて、喜屋武はわたしか……と己のことだと確信する。声をかけられたのが早いか、喜屋武が声をあげたのが早いか。)フフフ……ハァーーッッハッハ、見る目があるな貴様。いかにもこの喜屋武妙子はヤバイ。我ながらすばらしく完成されていると思う。(たったひとつの真実とばかりにそう言って、笑って頷いた。ひとの話をあまり聞かないふたりであった。口を開けば明らかに時代錯誤の喜屋武妙子と、興奮した様子の花椿カレンと名乗った女は、お互いに一歩引くことなくお互いのペースで会話をしている。)わたしははね学に通う2年の喜屋武妙子だ。よろしくたのむ、花椿カレン。ふむ、同い年だな。(手を差し出して握手を求める。こういういったところは欧米にかぶれていた。)貴様とおなじ苗字の知り合いがいる。親戚か?(と脳裏に花椿姫子の姿を思い描いた。)
あまり可愛らしいと表現されたことはないな。古臭い名前だとおもっているし、事実現代感覚でいえばかなり古い。ただこの名前は気に入っている。“言いようもなくすぐれているさま”という冠だ。そうありたいと思うからな。……カレン、貴様の名前こそが可愛らしいと表現するに値するだろう。その姿によく似合っている。(満悦気味な彼女のおとがいに手を伸ばし、そっと手を添えてその整った顔をこちらに向ける。170㎝オーバーの女たちが向き合って間近で互いを褒めあうさまは、バックグラウンドになんとなしの薔薇を添えたい光景であった。)そして期待に応えられず申し訳ないが、わたしはファッションに疎い。(彼女のおとがいから手を退け大きなため息をつく。)容姿や服装に気を使わないという訳でもないのだがな、美的センスに欠けている自覚があるので、いつもマネキンが着ているものや店員の勧めで服を買っている。肉体のラインが出る服が好きだ。わたしは……まあ個人の感想によるところだがちょうど貴様などが着ると、抜群に色っぽくなると思う。……ああ、うん。ブティック・nenneには良く世話になっているな。ほかにいい店があるか?ほう。なるほど……。(と、建設的な情報交換などを挟み、)わたしの部屋は和室だ。ふるき良き日本家屋なのでな。……貴様の部屋は洋室なのだろうな、想像がつく。(ふふ、と微笑みを添えた。)
フフ、なんでもない、という顔をしてはいないがな。(彼女の頬をつんとつついた。)剣道部に属している。実家……まあ実家だな……の関係で幼い頃から武術を仕込まれているのでな。そのなかでももっとも剣術が肌に合った。武術はいいぞ。わびさびと礼節が息づいている。(己の二の腕を掴んでもみこむ。脂肪とは違う質感の筋肉のやわらかさを指の腹に感じていた。)わたしも部活でだけは、おのれに笑うことを禁じているのだ。高笑いなどしようものなら反則になるかもしれんからな……。なに?自覚はあるぞ、笑い声が大きいと散々言われてきた。フハハハハ!!!(そして、散々言われてきても尚治らなかったあかしであった。)
もう時間か?残念だ。(気が付けば長らく立ち話に興じてしまっていた。懐中時計でも確かめるような仕草でスマートフォンを懐から取り出して時間を確認し、そしてふたたびふところに仕舞う。)ああ、また会おう。花椿カレン。次はゆっくりと喫茶店に洒落こもうではないか。ハッハッハ!!(チャオ、と軽快に去ってゆく彼女に向けて手を振りながら、喜屋武もまた歩きだそう。思いがけずよい出会いだった。それこそ笑い出したいほどには。)
これでよし、……っと。(部活もない、久々の完全なる休日。最低限の服しか持たぬ己でも流石にそろそろ新調した方が良いと、特に使い道もなかった小遣いはたいて気に入りのパメラにて滅多と無いお買い物。とはいえそう膨らみもしなかったショッピングバッグをふらつかせ、さて次はどこへ行こうか、久々に森林公園地区一帯をぶらぶら――なんて考えていた、その矢先だ。)へっ、……?(興奮気味の声。びくりと肩揺らし周囲を見回せど、一瞬捉えられない姿。どうやら背後に居るようだ。)ぼ、ぼくで(恐る恐る振り返る。)す、(振り返ったその先に、捉えたそのすらりとした立ち姿。あれ、この人って――…)かっ か、カレン様じゃないですか!!?うわぁっぼくカレン様ファンなんです一度でいいからお会いしてみたかったんです!まさか声掛けてもらえるなんてっわわっどうしよう夢みたいだ……!(まさかまさかの、雑誌や時には画面の向こうで輝いているはずのうるわしきひとが今ここに。心臓は飛び出でんばかりにうるさくて、でも先の声に負けぬ興奮度合いは読んで字の如きマシンガントーク。逆にびっくりさせている顔が目に浮かぶ――否、実際に浮かんでいる。)あっ す、すすみません勝手に興奮しちゃって……!(興奮したのとはまた別に、顔から火が出そうなほど頬が熱い。すー、はー。大きく大きく深呼吸。)――えっと、ぼくははね学2年の三門。三門詩央、って言います。三門は漢数字のサンに門松のカド。詩人のシに中央のオウで、シオ、って読みます。(スイスイ、空に字を書きながら、)……こんなナリですし、体格とか体型もこんな感じなんで、よく「男の子みたいだね」って言われるんですよね(“こんな”体型を見下ろせば、見事なまでの滑走路が目に留まろう。たは。ちょっぴり低めなハスキーボイスが、ちょっぴりおどけた笑みを落とした。)
えっ あ、ありがとうございます……!へへっ、カレン様に言われるとさすがに照れちゃうなぁ……。(軽く頬を掻くも、彼女からの質問であれば避けて通れないその話題。ぐ、とちょっぴり言葉に詰まった。)えっと、実はぼくこれと言って女の子らしい格好したことなくて……、……あっ、制服はもちろん普通に着てるんですけど!スカートにちょっと抵抗があるんで、割とメンズ物を着たりしてますね。恥ずかしい……。(現に服装は七分袖のシンプルな白カットソーにカーキ色のカーゴパンツ。どちらも男物である。「だから、」己とそう違わない目線にある切れ長の瞳を見つめて、)――カレン様みたいにスラッとしてて、でも女性らしさが溢れてるのって、すごく羨ましいです。ぼくには背伸びしても持てないモノだから。(ちょっぴりハの字眉になったことに、気づかれたのかもしれない。ぱちり瞬いた眼前の双玉に、「あ、えっと、あと部屋でしたっけ?」ぱっと目を逸らして無理やりな話題転換。)部屋は、うーん……。家族にも友達にも、物が無い、ってよく言われますね。(自室思い描いているのか空に目線を向けながら、)元々シンプルめな雰囲気が好きなのもあるんですけど……ぬいぐるみの類もゲームの類も置いてないですし、服やカバンも最低限なので。(ふむ、)
(じっくりと向けられる双玉に、思わずどきりと心が跳ねる。この顔で見つめるのは反則だ。かなり。)……?あ、えっと、ぼく喋りすぎですか……?(無意識に胸押さえ尋ねるも、はぐらかされてしまえばそれ以上追求は出来まい。)――え、あ、部活ですか?(きょとり。今度はこちらが瞬く番。)えっと、一応バスケ部に。マネージャーじゃなく、選手の方で。元々、身体動かすのは好きなんです。(ああでも質問としては定番か、なんて答える口ぶりは先程よりも軽快に。)
はいっなんでもどうぞ!(身構える。身構えたけれど、それも意味を成さなかったとすぐに知る。)あ、カレン様お忙しいですもんね。――っは、はい、また!(“さようなら”じゃなく“また会おう”がひどく嬉しい。ぱたぱたと大仰に振った手は少々周囲の注目を集めたかもしれないけれど。)……、(ぼんやりと去っていった方向眺めて、のち、――ぎゅむっ。)――い、っだだだ……(突然頬を抓った。)…………ゆ、夢じゃない…………ぼく、本当にカレン様と話せたんだ……!(今ばかりは頬の痛みが心地良い――なんて、マゾヒストな思考に浸ってしばし。うるわしのひとの華やかなオーラにあてられたまま浮ついたつま先が向かうはさて、当初の予定通りの森林公園地区方面か。それとも――…?)
(休日に繁華街地区をぶらつくのは日常茶飯事で、それはちょうど立ち寄った喫茶店で買ったテイクアウトコーヒーを片手に時間を潰していた時分だった。)んあ、(目が合った。それはもう文字通りに。)………あ?アタシ?(呼び止められたと分かっていても、商店街を歩く人間の数も相当なものだから念のためにと確認ひとつ。直ぐに肯定の言葉を与ったとなれば、二、三歩そちらに歩み寄るくらいの譲歩は見せようか。)花椿……(聞いたことあんなと思いながら、彼女の整った容貌をマジマジと見て、)あ~~~ね。後輩か、後輩だよな。なんか見たことあるよお前。タッパ、アタシと変わんねえし、目立つよな。(彼女の自己紹介を前に知ってましたとばかりの相槌を打つ。)アタシは3年の星川……(3年、と言ったあたりで彼女の眉が少し寄ったような気がしたので、「あ、悪い」と直ぐに謝罪を挟み込み。)敬語、いらねーから。お前そういうキャラでもなさそうじゃんな?たかだか1年早く生まれてきただけで人間として偉いとこなんてなんもねえし、ダイジョーブだよ。気にしないで喋って。(ほらほら、とダメ押しの促しも放り投げた。)……あん?下の名前も?調子いいなおい。(打って変わって調子よく頂戴した名前の催促にはふはっと鼻を鳴らすように笑って、)星川真雪。真雪な。よろしくカレン。
ど~~も。……いや、可愛いんか?(ただの雪だぞ、と言いたげな顔をしつつ、)あるかないかでいったら「ナイ」が正しいんだろ~な。ファッションとかあんま興味ねえんだよ、着てて楽なのが好きなだけで。あとはデニムに合わせやすいやつ。シンプルなやつ。色は暗めが多い。(アンケートに答えるみたいなテンションで矢継早に回答すれば、「力になってくれんの?」と口角を上げて尋ね返した。)どんな部屋?は斬新すぎじゃね……え?それも力になってくれんの?フッツーの部屋なんだけど………(続いてもう1つの質問には、困惑を一切隠すことなく受け答えをしておく。)
(理解し難い相槌をしっっろい目で見送ってから、)部活は バ・ス・ケ♡(彼女の調子を真似て返してやった。とはいえこれではプライドが羞恥を呼び起こしそうなので、)知ってっか?バスケ部。たまに隣で練習してんだけど。(一般的な話題をひと挟みしてから。)お前、確かバレー部だったよな、クラスの女子が騒いでたから一方的に存在は知ってたけど。3年の中でも有名なんてやるなあ。羨ましいわ。(目線の変わらない彼女を品定めするように見つめながらうすい笑みを落とす。 言を俟たず、彼女が浮かべた笑みに喜色か否かの判断が付かなかったから、これ以上深堀りする気もなかったけれど。)なあなあ、アタシは女っ気ないだけでカッコイイ分類には入らんらしいよ。差、感じんね?
そうなんだ~ってお前、すっげ流したろ今(話の矛先を変えてはみたが不発だったらしい。思い掛けずツボって噴出した口元を片手で拭うように押さえれば、)ま、いいや。時間切れならしゃーなし。「また」があるんなら、それが来んのをそこそこ願ってんよ。(はいはいチャオチャオ。笑いが尾を引いたまんまのかんばせで、嵐みたいな彼女の後姿を見送った。それから何とはなしに商店街の時計に目がいって、頭が無意識に秒針を読み取る。)マジか、あと30分くらい引き留めときゃよかったな。(映画の時間まであと1時間。思いがけず楽しかった台風上陸を惜しみながら、のらくらと商店街を歩んでいく。)
(誰かが『ハッ!?』と息呑むあさい空気振動が卒然鼓膜をノックした。それでも満員電車のなかで他人の独話をあしらうみたいに無視を決め込んだのは、まさか自分が声を掛けられたのだろうとは思わない当事者意識の欠如が起因する。次第につよまる『ねぇねぇ』の語気だってなんせ知らない子の声が発してるんだ、あたし関係ないかなって延々とぼける無意識の薄情女はずっとスマホに夢中だった。液晶画面いっぱいに映じられたGORO&姫子のコラムしか勝たん―――と まあ、かかる意識は秒で脆く瓦解する。肩先に触れる誰かのほそい指先に吃驚する意識が勝ったのだ。)ぉわ あたしぃ!?(当事者意識が生まれ落ちた瞬間、鬼生の肩が跳ね上がる。)うは、ゴメンね気づかなかったあーー…。ビックリだよ、いきなりさあ。(爆音を鳴らす心臓を押さえつけるように胸元に重ねていた指先を震わせながら吐き出す恨み言はさしずめ当てつけで、ひん剥かれた心の矮小さは丸裸である。)それにしてもひとのことアンタアンタってねー…カワイイからってちょおっとなっまいき!(見つめた先、負け犬がひとみに映した美少女は巷の有名人。一方的によくよく見知った存在だった。噛みつくみたいに下した叱咤には溢れんばかりの憧憬が透ける。)こちとらセンパイ。足りないのはほんわかした胸の厚みくらいよう!て、やだやだホンネ零れた。ジギャクテキ…。でもいいあたしはこんなあたしでもすき…。(美意識のカリスマ女神を相手に黒星をぽろりと白状して自己嫌悪。もしも目下LINE中だったなら片目からなみだ滴る系の顔をスタ爆していた。)おにおだよーう、3ネンの鬼生怜愛。すきな言葉は「朝1杯のレモン水」ぐぐってみて!(口数が増えた序に雑談が加わるのは女に生まれた宿命みたいなもの。)あたしはあなたのこと知ってたよ。雑誌でよく見るもん。(背の高い彼女のひとみに焦点をあてようと睫毛がぐっと持ち上がる。)あーーー…もう なんでそんな肌キレイなの花椿さん!?(まじまじ見て後悔。やんなるくらい肌理細かな肌に視線を奪われた数秒後、吠えるようにキレた。前触れもなく急接近するうつくしい流れ星みたいな彼女とのハジマリ。)
えッ、……あははは、そうかな!?(理不尽極まるブチギレはいつの間にか春風に吹かれて、遠く海の向こうまでさようなら。たった『可愛い』ぽっちの一言は、だって侮れやしないやさしい温度にくるまれていた。頬がたゆんでくちびるは綻ぶ。おだてに弱い鬼生らしい機嫌の直り方だった。)あたしは花椿さんの名前、すきよ。だって名は体をあらわすって言葉そのまんまだもん、ピッタリ素敵すぎて羨まむかつくうー!っておもうくらい可憐さを感じられて乙女らしいって、ゆーか……………。(言葉に詰まって静寂が落っこちる。ただし時を同じくして脳みそはフル回転していた。みずからの発言へのちょっとした引っ掛かりが視線さえも揺蕩わせている。)てゆーかてゆーかぁぁ…っ。ゎ、わあああカレンなだけに?とか!寒いオヤジギャグひっかけたワケじゃなくってねーーーーー!?!?(くだらない程気に掛かる制止の内訳を叫ぶのは沈黙に堪えかねた頃だ。一寸先は闇みたいな崖の淵で黙りこくったって埒が明かない自覚を得てカミングアウト。無意識に言葉遊びをうたっていたくちびるを呪った。―――でも、続く展開は拍子抜けするほど他愛ない。)え?言わなきゃわかんなかったの?(呆けた顔がこのまま一生凝り固まってしまうんじゃないかって錯覚を起こしたのは、花椿カレンの顔いっぱいに浮かんだ疑問符を見つけてしまったからだ。)うあーーーーーーーぁぁ……しくじったあ……ジイシキカジョーじゃーーーーん…。(耳を塞いでムンクのポーズ。過去イチのブス面を晒して半べそを掻いてるみたいな境地にいたるのは、こみあげた羞恥の昇華方法を分かりかねる頭がヒートした結果だ。一人芝居の幕を閉じる方法を見出すのは暫く逡巡するのち。)はぁぁぁ…やだやだ寝て忘れよ!(チークを塗りたくりすぎてオカメインコと化すような火照った頬を両手で隠して、身体の内側から湧き上がる熱とうんざり顔を封じこめる。)あーうんファッションすきー。系統なんて気分気ままでその時々ってかんじだけど、最近はセクシーとキュートをいったりきたり!…ぁぁでもモノトーンもくすんだベージュもすきかも…はぁ系統なんだろな…カオスゥ…?女ウケより男ウケより狙いたいのは自分ウケ。(にひと笑わせた唇の端っこにはしろい歯を覗かせた。)力になってくれるとか……やだいい子じゃーーん!?(胸が音を立てる。ときめきの合図にも似た感激に打たれて眉をハの字に滑らせた。)部屋はね、白・黒・灰・くすんだピンクで纏めておとなっぽさ狙ってるよう。お小遣い貯めてFrancfrancで部屋用小物集めんのもすき。(欲しいのはコレでさー、アレでさーっと頼まれてもいない商品情報をスマホの画面に呼び寄せて花椿に見せ始める始末。)
意識の逸らさせ方ちょーヘタっぴじゃん気になるわーー…♡(うふ♡に釣られて上げたくもなかった筈の語尾が自然とふわふわ上がっていく。完全に花椿カレンのペースに乗せられていた。答えちゃくれない“なんでもない”の内訳には、いいけどもういいけどって見切りをつけて指先でぺっぺと話題を払いのけた。)部活もち。やってるーーーーう。(ポンポンを振り翳すように片手を空に突き上げるのはこんな部活だよって暗に示すための体現だ。答え合わせはのちに続く。)体型絞るために身体鍛えられそーな運動部入りたいって1ネンの初めから元々決めてて、見学行ったらちょーーうカッコよかったチアに決めたの。(溌溂とした物言いには好きゆえの情感が詰まって頬にぬくもりが立ち込める。)練習はさーオエりそうなくらいキッツいけど…あたし、くるしーおもいして鍛錬するのは結構すきみたーい…。(吐きそうな程走りこんでマットレスに転がり込む練習風景を想起すればとほほ顔が思わず浮かぶけれど、でもやっぱり、嫌いじゃない。寧ろ好き。)部活の話してたら柔軟したくなってきた。(ヘンタイが板について早3年目。あはっと喉から零れ落ちた笑いは朗らかに澄んで、部活恋しさに手足は疼きだした。)チアやり始めてからかな、家で筋膜リリースするローラーでゴリッゴリほぐすのが日課になったよ。花椿さんも持ってそう。あれイッたくなーーい?痛くないと心配なって痛くなるまでやっちゃうくらいクセにもなんなーーい?(思いだしただけで痛ッ。感じるわけもない鈍い疼痛を感じた気になって前腿を摩った。)あとあと青汁も飲み始めたりして、最近は健康オタ活にも目覚めちゃってるとこーーー。あたしきっと120歳まで生きちゃうよ。(ふふふふんと鼻先で歌うみたいに得意げな響きを零して笑う。いつの間にか彼女との対話が楽しくなっている自分は呆れる程ゲンキンなんだって思い知らされる。)
え……ぇと。まだまだあるの?めちゃんこ聞くじゃん、聞くことなんてそんなあるーー……!?(答えても答えても尽きない質問は矢継ぎ早。無限ピーマンはオイシイけど無限Q&Aは類を見ないだろうに。)てゆうか寧ろあたしこそ質問したいんだけどぉ、て、終わりかーーい…!終わっちゃったよ。聞くだけ聞いてズルだよぉ…っ。(部屋はどんな感じ?オススメのコスメはなに?UV対策どこまでやってるの?って云々まだまだ質したい問いのストックはあるのに、時間の壁は唐突に二人のあわいに立ちはだかるのだ。)勝手だなーー!!!まあいっか、楽しかったもん。またねっ!(笑い声に小言を溶かして手を振る素振りは大きくて、ひょんなきっかけで結ばれた縁をいとおしめた気概が無意識に露わになった。美少女の気侭さを憎めないどころかその魅力にオチかけた青くてちょろ臭い女子生徒Aの朝は、いちにち限定で非凡さにきらめいたこと間違いなし。)
(生まれてこのかた「アンタ」なんて呼ばれ方を誰かに許したことはなかった。なぜならあんまり美しいと思えないから。休日の夕刻、駅前ロータリーでバスを待ちながら、その呼びかけが自身に向けられたものだと察しながらも聞こえないふりを決め込む。声の主に心当たりといえば、書道展で賞を貰うたび「親の七光りね」とささやきに来てくれる意地悪な子くらいしか思い浮かばない。彼女のなにが失礼って、名のしれた書家である祖父の威光を無視しているという点だ。)七光りから生まれた七光りって、う~んつまり四十九光……もはや後光、いいえ菩薩……… なるほどなぁ(独りごちていたところを肩を掴まれたなら)えっ、どなた? あら?わあ、花椿カレンちゃん!でしょう!わたし知ってるわ、美しいものはよく知ってるの(彼女の名乗りよりも先にその正体を言い当て、得意げに笑う。華のある容姿によく通る声。これほど美しい生き物に声をかけられたとあれば、二十分待ったバスを見逃すのもどういうということはない。ぜひ隣に座って!と熱いラブコールを送り)わたしは西東いつみというの。難しくないサイトウだけど、ちょっとむずかしいサイトウ。(アンタ連呼もまるで気にせず、むしろ笑みを深めるばかりで)太陽が沈んでからまた現れるまでのニシ・ヒガシで西東、名前はひらがな。いつみって呼んで頂戴ね。
ありがとう。わたしもカレンちゃんって呼んじゃおうかな、いい?──……ファッション?(力になれるかも!という嬉しい言葉にのぼせ上がる暇もなく、自らの服装を省みるなりスッ…と表情を消して)………うん。まって、ひとつずつね(鷹揚に笑ってわずかばかりの時を稼ぐ。なにしろ本日は定番のモノトーンコーデ、というよりほぼ黒一色に染まりきった我が身であれば)あのね………ええと………興味はあります。でも持っているのは偶然…たまたま…ばっちり黒い服ばかりで、あとは……隠さずに言えばジャージが好き(結局取り繕うこともできず、恥ずかしげに囁いた)みんながお洒落するような服もとても美しいと思うけど、でも不注意ですぐ汚してしまうから……そう!言うなれば、実用の美というやつかも?(だいぶくるしい言い訳だがツッコミが入る前にと、急いで話題のスライドを試みる)部屋はふつうの部屋。居室兼書斎と寝室の続き二間。ふすまにプロジェクターでホームシアター風にしてて、ゆくゆくはベッドとアンティークのラタンチェアと、ティファニーランプがほしいの。美しいものに囲まれて目覚めたいわ……。
もう、なあに?うふふ……はあ~♡(つられ笑いさえ彼女の美しさでは感嘆混じり。特に彼女の長い首筋、鼻梁の造形と涼し気で愛嬌も備えた瞳。)………美しいわ(再びため息に溺れながら、もし彼女の不信を買ったのなら「なんでもない」と同じ言葉を返すつもりで)部活は書道部。はね学では実習棟の一番上の、一番奥の突き当りが部室よ。海がよく見えるし人は来ないし部員は数える程度、ホラー映画上映会してドーナツ食べながらやってても怒られないって、なかなか素敵でしょう(自慢げに笑いながら、そういえば、と膝を打ち)たしか今年はカレンちゃんのはばたき学園と交流を深めましょうって、行き来することも多いのよね?ぜひ遊びにきて頂戴。ただし、汚れてもいいお洋服と竹炭パックの覚悟が必要よ。(秘密基地の場所をこっそり教えるみたいに目を細めた)
ええ、ちょっとつれないお返事じゃない(嫌味のないそうなんだ~はしかし、好感触とも捉えがたい。特典なりポイント付与なりを積んでYESを引き出そうと画策し始めたところへ)うん、次は?……っと、あらら残念(タイムリミットを告げられ、しおしおと肩を落としながらも)でも、とても美しい時間だったわ。次はカレンちゃんのお話も聞かせて、きっと美しいものもたくさん知っているでしょう?だからまた会いましょう。そう、絶対だよ(異国の情緒を残して軽やかに去っていく後ろ姿を見送れば、美しいわとまた呟いた。再びベンチに一人味気なく腰掛けて、バスが来るまで惚けていようかとも考えたけれど)………もう会いたくなっちゃった(駅ビルの本屋には、彼女がモデルを務める本が見つけられるはず。今日の出会いの思い出をしかと胸に抱くため、バスはもう一つ余計に遅らせることにした。)