中学テニス界に“コート上の詐欺師”と呼ばれる男がいた。嘘と欺瞞にまみれたトリッキーで変幻自在のプレイスタイル、その時々に応じてありとあらゆる者の精神を纏い、プレイスタイルのみならず声帯・顔貌をも引き出せる技能がある。そして、けして己の底を見せない男だ。何事にも飄々とした風采で煙に巻き、方言の入り混じる謎の口調と異国風の謎の擬音で誤魔化しはぐらかしもお得意様。酷くエキセントリックに見せるあわいで殊の外まったくの非情とも言い難く、うすら漂うばかりの情から好意的に見れば悪戯っ気や茶目っ気の至りとも捉えられる。さりとて誰の意も介すことのないジョーカー、仁王雅治は今日も気紛れな足取りで己が道をゆく。