「だって何でも好きに食っていいって言ったから!」――被疑者は後にこう語る。交渉人への貸し借りは既に清算している心算であったが、何分丸井という男は食に対する煩悩にまみれている。つまりその名の通り、餌を鼻先にぶら下げられると容易に誘惑されてしまう単純明快楽観的男。ポジティブ思考で後腐れなく、自らを天才的と称する様には自己への自信が透けて見えるが、その大口に勝る努力と実力は常勝・立海大付属中学のレギュラーに君臨し「ボレーのスペシャリスト」と銘打たれただけのことはあるだろう。必要となれば嘘も吐く。けれどひとつまみより多めな罪悪感が見え隠れしまう程度には、男の心根は誠実さの配分が大きいのかも分からない。