（静寂に包み込まれた四番テーブルは傍から見れば異様だったかもしれないが、河村にとってウェイウェイした空気よりも、新雪が降り注ぐような空気の方がいっそ心地良かった。女子生徒が質問を投げかけるのを聞きながら、How to 合コンを調べる訳がないこの男、手癖で料理の取り分け、配膳の準備を進めていた。）でも確かに似てる気がするよ。（一刀両断された女子生徒にささやかなフォローを入れた後、）英二…あ、部員仲間がよくアイドルの話をするんですけど、さっぱり分からなくて。店でもナイターつけてることが多いし…（実家が寿司屋やってて、と補足を添えてから少し口を噤み、）杏さんとか長澤まさみさんみたいな、すらっとした女優さんを見るとやっぱりきれいだなぁって思いま、す。（慣れない話題ゆえ最後の最後で喉が詰まり、頬に朱色が滲めばそれを誤魔化すべく俯き加減で近くの人へと。）げ、芸能人に詳しかったりするかい！？

（頭1つ突き抜けた灯台のお陰で自席を離れても戻るのが容易い我らが四番テーブル。異質な静謐を「お通夜ですね」と笑い飛ばせる胆力の持ち主はものともせず、配膳のアシスト。右隣の席にうっかり箸が三本行き渡ってもオーライ。）はいはい、雰囲気？がですね！ロイヤルコペンハーゲンも捨て難いですけど。（明らか髪色を見ての印象を付随しつつ同意しつつ、左隣に箸四本を配膳）テレビを付けているお寿司屋さん、珍しいですね？それにしても河村さんドドド面食〜〜♪うちの子はみんな可愛いので良かったですね！！（めちゃくちゃ笑顔）詳しい、と言うほどじゃないかなあ〜。何よりわたしは天使なので顔で印象は変わらないのです……あっやだいまのすごく天使……。（恍惚に手を止めればフォークが転がり落ちたのも度外視。）強いて言えば小池徹平さんでしょうか。年下っぽい年上顔、よくないですか？（同意を求めるは偶然目が合ったが為に。）

（カチャ…カチャ…と食器がぶつかる音だけが響くこの空間。合コンとして正しい訳が無いと、どうやらこのテーブルを纏めるらしい長身の先輩にhelp！の視線を向けるが一刀両断の答えにお、おい…と思わず今日という日を諦めたくなった頃。突然渡された4本の箸の使い方に迷っている間に会話は少しだけスムーズに進んだらしい）おい…箸これ…いや、良いんだけどよ。多い分には。（余った一膳をソッ…と机の端に置き、彼から分けられたサラダを相変わらず下手な手つきで、箸を使って摘みながら）小池徹平…、あいつずっと同じ顔してねえか？アイドル系が好み？俺はスカーレット・ヨハンソン。しょ、…中学の頃から好きだぜ。（慌てて年齢を3年アップデート。天使を自称する彼女に表情を引き攣らせつつ、とりあえずフォークを拾ってテーブルに置いては（何故か手元に使えない箸とフォークが集まっているが）目が合った人物に眉を下げて確認を。）箸ある？

あります！3本！！（静寂が打ち破られた空間で、天使より賜ったサード・スティックを横に置きシーザーサラダをつつく。どちらかといえば芸能界に詳しくない側の人間のため、正統派な女優と俳優の名前はギリギリ顔を思い浮かべて頷いていたが、横文字のガイジンという回答の戦闘力の高さに目をひん剥きかけた。）小池徹平もしばらく見てないけど流石にちょっと老けたりとか…（スマホを取り出して「小池徹平」で検索）こ、小池徹平って35歳なんですか！？（ついでに他の人も検索）杏は34歳！？うそだ……（自分の倍は生きているのに全く衰えぬ顔面に謎の敗北感を覚えつつ）イケメンもいいですけど、貫禄あって強そうな人もよくないですか？藤岡弘、とか……（末尾のテンまで律儀に発音する癖に、手元はゆるゆるのため箸が床に落ちた。チビの短腕ではギリギリ届かない距離を気合で乗り切るが先か、誰かに目撃されるが先か。）

ジャッカル！！何をしている！！！（通夜かと見まごう静まりも会話が広がり始めた頃、不意に場に似つかわしくない怒号が飛んだ。ずんずん4番テーブルへ近づく黒帽子を被った男は、顔面成人判定を容易くクリアしそうな、小池徹平より年上ですと言われても説得力のある厳つい顔貌を提げている。――貫禄があって強そうな、我らが代の副部長の姿の。）フン……芸能人にうつつを抜かすとはたるんどる！…然し、男児たるもの常に己を律し、修羅場を潜り鍛え上げてこそ出てくる貫禄もあろう。軟弱では話にならん！（ご満悦気味に言い捨てながら、床の箸を拾い上げれば奮闘する彼女へ「新しいものを使え」と残し拾い物をテーブルの隅へ置き去った。）貴様もそうは思わんか。（入れ違いに投げ掛けた相手は誰だったか――真田弦一郎…否、仁王雅治はどこぞへ向かう。）（ペテン被害は現在、1番テーブルのみならず勢力を広げて拡大中。大変注意が必要です。）

（桐江が追注してくれたハニトーのアイス添えがやけに好評博するばか美味だったから、お福分けしに回ってみっかとホームを巣立ちここに至る最中。）珊瑚ぉ～～貫禄あって強そうなの来た。（若き黒帽子の藤岡弘、が現れたなら我が部のちびっこと揃いのブルーアイがまんまる化。）思う！けど……貴様……さっきジコPいた……？チコクぅ……？（貫禄があって強そうな背中を見送りながら25人いる！疑惑に首を捻らせていた。）藤岡弘、のテン、って“テンでダメな男”もイミのひとつなんだってね。“ヒロシです……”（杞憂声）みたいな余韻の点かと思ってたな～～。（拝借した小皿に6番テーブルから一部連れてきたアイス添えのハニトーを盛り分ける。）よっ。お味見どう。バターしみっしみ。（傍を通りすがる人影への挨拶ついで皿を差し出すその意図は、ちょっとこっちで話してこと戯れたがるいざない兼しあわせのお裾分け。そっけない目尻が微かに撓む。）

まさか真田クンも呼ばれ――……とる訳あらへんわなぁ。呼ばれても断りそうやし。（通りかがりの怒号に視線が引っ張られても何もおかしくは無かろう。つい足を止めた所で、真反対のソプラノが響く。）ん、？ああ、ほな貰おかな。さっき6番テーブル寄った時、貰い損ねてもたし。（よくよく見れば、ハニトーの主は先程寄ったテーブルに並んでいた顔だ。「おおきに。」一言告げれば甘い香り纏う皿を受け取って。）湖心サンの藤岡弘、トリビア？それは初耳やったなぁ。……芸名に記号入っとる人らて皆そないな感じに理由あるんやろか。キムタクの娘さんは単なるアクセサリーらしいけど。（――なんて、ハニトー分の話題提供は惜しまないつもりで口を開いた。「あの姉妹も綺麗やんなぁ。ファンもなかなか多いんちゃう？」しれっと無難に答えつつ、暫しのご歓談と相成るか、否か。）

河村、お前は甲斐甲斐しい事よくしやがるぜ。（配膳を尽くす知った顔がよぎる通りすがり。飛び込む視覚情報に眉間を寄せれば、近くの店員に声を掛けた。）オイ、落ちてんだよアレ。そのままか。（桑原や仁王が拾った後のフォークや箸を顎で指せば早々に踵を返すが、その折には誰かにぶつかる感触がした。）あァ゛？なんだお前、ちょろちょろしやがって。（相手が野郎だろうが大抵の人間を俯瞰できる上背故、難のある極道面が視線を下げれば、自然とガン付けた風采が仕上がる。景観の悪さこの上無し。）で？（ドス効き声がくぐもる。発語の輪郭は問いを型取るも、）平気かっつってんだ。……チッ、察せねーのかよ。（返事を待つより、もしかすると自分が投じた疑問符の意図を補完する言葉が音に変わる方が早い。まあ肩が擦った程度で怪我でもあるまい。応答得る頃にはフンと鼻を鳴らして撤退。プライドが紡げない悪かったの一言を、一度振り返る姿に代えて。）

（36名。この人数が席替えだなんだと入り乱れる今であれば、一人消えようが消えまいがさしたる問題にはなるまい。席を立って扉へと向かおうとした刹那、肩に軽度な衝撃を受けたが声は出ず、緩慢にじろりと視線を向けたなら、）…あァ？（現在の位置では顔を確認出来なかった為、不服ながら視線を持ち上げれば映ったのはモデルのような長身に白い髪、先程ラッキークンに茶々を入れた男だと気づく。――これはタイマン勝負ではない、理解はしているがガンを垂れてくるなら垂れ返したくなる乙女心ならぬ蛇穴心であったが。不意に唇が笑みで歪む。）ヒヒヒ、折れたヨ。後日診断書を叩きつけてやろうネ。（嘘と解る口吻はただ相手をおちょくってやりたいが為のもの。ただの冗句だ。軽薄な笑みを以て無傷を知らせ、後に元部長辺りに「輩に会ったヨ。ぴェん。」とかまってちゃんアピでもしておこう。）